寒露のころ 菊花開(きくのはなひらく)
神棚の榊には意味がある — 古事記に出てくる由来と、家での扱い方
神棚にお供えする榊には、神さまの領域と私たちの領域との境を示すという意味があります。古事記の天岩戸の場面に出てくる由来から、替える日、国産と外国産の違い、枯れてきたときの扱いまでをまとめました。
この記事の答え
榊は古事記の天岩戸の場面で、鏡や玉を掛けて神前に立てられた木として登場し、古くから神事に用いられてきました。私は、神棚の榊を「ここから奥は神さまの場所です」と示す境として受け止めています。1日と15日に替えるのが一般的と言われていますが、家庭では毎日水を替え、枯れて葉が少なくなるまで使って差し支えありません。神棚は家の中に祈る場所を求める方にいちばんおすすめできるものですが、必ず備えなければならないものではありません。
01神棚の榊、なんとなく供えていませんか
おじいさん、おばあさんの家の神棚には、たいてい榊が供えてあったのではないでしょうか。緑の葉が左右に1対。見慣れた景色ですが、なぜ榊なのか、どんな意味があるのかを聞かれると、言葉に詰まる方が多いように思います。意味を知らないまま、あるいは意味が分からないから供えていない、という方もいらっしゃいます。
榊を供えるのには、ちゃんと理由があります。その理由を知ると、神棚に向かう氣持ちが少し変わる、と私は思っています。
02古事記の天岩戸に出てくる榊
榊が神事に使われてきた歴史はとても古く、『古事記』上巻の天岩戸の場面に出てきます。天照大御神が天の石屋戸にお隠れになり、世界が暗闇に包まれたとき、神々が集まって相談し、天照大御神を外へお出しするための祭りを行います。そのなかで、天児屋命と布刀玉命が天香山の「五百津真賢木」(いほつまさかき)を根ごと掘り取り、上の枝に八尺の勾玉の長い緒を、中の枝に八尺の鏡を、下の枝に白と青の布を掛けました。布刀玉命がその木を太御幣として捧げ持ち、天児屋命が祝詞を奏上します1。
つまり榊は、神話の時代から、神さまをお迎えする祭りの中心に立てられてきた木だということです。「榊」という字は木へんに神と書きます。この字は日本で作られた国字で、神事に使う木という意味がそのまま字になっています。
03地鎮祭の榊と、神棚の榊
榊は今も、神事では神籬として使うことがあります。家を建てられたことがある方は、地鎮祭の祭壇の真ん中に立てられた榊を見たことがあるかもしれません。あの榊が神籬で、そこに神さまをお招きし、この土地に建物を建てさせていただくお許しをいただく、というのが地鎮祭です。
では神棚の榊はどうかというと、私は、神さまの領域と私たち人間の領域との境を明らかにするものとして受け止めています。榊より奥は神聖な場所です、という目印です。これは私の受け止め方ですが、榊がないと、神さまはそこが神聖な場所だと分からず、降りてよいのかどうかが分からなくなってしまう、と私は感じています。ですから神棚をお持ちの方には、神さまをお迎えするためにも、榊を供えることをおすすめしています。
04替える日と、枯れてきたときの扱い
榊は1日と15日に替えるのが一般的と言われています。神社で1日と15日に月次祭などのお祭りが執り行われることにならった習わしだと言われていますが、一般の家庭では、枯れて葉の数が少なくなるまで使っていただいて大丈夫です。毎日お水を替えていれば、1か月ほどは持ちます。
私の家では、葉が少なくなってきたら榊を1束買い、ふたつに分けて、今ある榊に足すようにしています。榊も植物で、生きています。まだ青い葉をそのまま捨てるのではなく、大切に扱いたいという思いから、そうしています。
もうひとつ、私の経験からおすすめしたいのは国産の榊です。少し値段は高いのですが、中国産と比べると、私の感覚では持ちが3倍ほど違います。長く青々としていてくれるので、結果として手間も少なくなります。
05神棚は「いちばんのおすすめ」であって「必須」ではありません
マンションにお住まいの方は、神棚を持っていない方が多いかもしれません。今はモダンな神棚もあり、洋室に合うものも増えています。家の中に祈る場所を求めるなら、私は神棚をいちばんにおすすめします。ご縁を繋ぐ窓口になってくれるからです。
ただ、神棚は必ず備えなければならないものではありません。神棚がない家でのお札やお守りのまつり方は、別の記事に書いています。神棚があってもなくても、形式より大切なのは、神さまを敬う氣持ちです。
必ずこうしなければいけない、という決まりはありません。だからこそ、榊を替えるその一手間に、心を込めていきたいと私は思っています。
参考文献
- 1倉野憲司校注『古事記』岩波文庫、1963年、上巻「天の石屋戸」の段。↩
静かに、手を合わせてみてください。
よくあるおたずね
- 榊が1日と15日の前に枯れてしまいました。すぐに替えるべきですか。
- 枯れた葉が目立つようなら、日にちにこだわらず替えて差し支えありません。毎日お水を替えると、長く持ちます。
- 榊の代わりに、ほかの木や花を供えてもよいですか。
- 関東より北など榊が育ちにくい地域では、榊に近い仲間の常緑の木であるヒサカキを供えることが多くあります。
- 榊は左右どちらにも必要ですか。
- 神棚では、榊立てを左右に置き、榊を1対供えるのが一般的です。
この記事のことば
- 榊(さかき)
- サカキ科(以前の分類ではツバキ科)の常緑の木で、神事に用いられてきました。「榊」の字は日本で作られた国字です。この記事では、神さまの領域と人の領域との境を示すものとして受け止めています。
- 神籬(ひもろぎ)
- 神事で神さまをお招きするための依り代です。榊などの常緑の木を立てて作ります。地鎮祭の祭壇の中央に立つ榊がこれにあたります。
- 天岩戸(あまのいわと)
- 『古事記』『日本書紀』に語られる、天照大御神がお隠れになった岩屋の戸です。神々が祭りを行い、天照大御神を外にお迎えしたと伝えられています。
- 月次祭(つきなみさい)
- 神社で毎月定まった日に執り行われるお祭りです。日は神社によって異なり、1日と15日に行うところも多くあります。
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